今回も不発に終わった「水際対策」 新型インフルパンデミック時の失敗から何も学んでいなかった

#新型コロナウイルス #COVID-19 #感染症

「科学」(岩波書店2009年9月号「新型インフルエンザの国境検疫(水際対策)の効果に関する理論疫学的分析」参照

2009年度 新型インフルエンザH1N1 パンデミック時の対応について検証されている

水際対策の効果の検証

①発病者の侵入抑制効果、②国内流行の発生確率低減効果、③国内流行の発生時期の遅延効果

⇒流行の発生確率減らす効果は殆ど無い、流行開始時期の遅延も半日も期待できなかった(即ち、検疫はいつやめても影響は無かった)

メキシコシティ‐成田直行便の飛行時間は14時間。NY-成田便は12時間半

仮に12時間のフライトで日本に到着すると考えると、ブタ由来新型インフルエンザ(H1N1)の平均潜伏期間は1.4日。感染した人間の2/3が発症し、残りは不顕性感染となる。赤外線体温計や迅速検査キットを使用して感染者を発見できる確率は60~70%であることから、メキシコやアメリカから直行便で帰国すると、全感染者のうち、85%が検疫に引っかからないことになる。本当に水際で食い止めるなら、入国者全員を9日間以上ホテルに停留させる必要があった

検疫により、流行の発生確率を抑制したり、流行の開始時期を遅らせたりする効果はあったのか?

フライト時間が12時間の場合、何も検疫をしない時に比べて国内流行が発生する確率は僅か2.7%減少するにすぎない。しかも流行開始の遅れ効果は半日未満である

以上のことを考えると、今回の新型コロナウイルス感染症についても、中国や韓国などからの帰国者や来訪者での感染者の侵入抑制効果は殆ど無い(距離が近く、潜伏期間が長い、無症状・軽症者が多いことを考えるとなおさらである/欧州からの来訪者や帰国者も同様)

COVID-19に関する2つの課題解決(誰にワクチンを接種するのが効果的か? ワクチンはどれくらい必要か?)

感染者数の抑制と死亡者数の抑制のためには、ワクチン接種の優先順位が重要な要因であり、ワクチンは死亡率の高い人から優先接種するのではなく、二次感染を起こす頻度の高い人を優先した方が合理的であるといわれている(即ち、無症状(無自覚)者と軽症者である)

では、国はどれくらいのワクチンを準備すればよいのか?

基本再生産数(感染力指標)

 ひとりの感染者がその全感染性期間に於いて生み出す二次感染者数の平均値(R₀)

 一人の人間が二人に感染させる力を持っているなら、そのウイルスの基本再生産数は2である。

 R₀が1ならば、ひとりがひとりにうつしていく事になり、流行は長期的には拡大も減衰もしない。

 R₀が1より小さければ、やがて流行は終息する。

 2009年新型インフルエンザ(H1N1)のR₀は1.4~1.6(2009.10 特定の地域を除く研究結果、平均R₀=1.5)

 「当たり」ワクチンの効果率(ε)は約80%(ワクチン接種者80%に免疫効果あり)、「はずれ」ワクチンの効果率は約60%

 ワクチンの効果ε、ワクチン接種者の割合pとするとき、全国民のうち免疫保持者の割合は、εpとなる。

 免疫を持っていない人は(1-εp)で表される。

 免疫保持者は感染しないとすると、再生産数R₀に免疫を持っていない人の数を掛けた(1-εp)R₀がワクチン接種施策を実施したときの新しい再生産数Rとなる。この値が1より小さければ、国内の流行は抑制できると考える。

 R=(1-εp)R₀<1 より、p<1/ε(1-1/R₀)

 このpが流行を抑える為に必要なワクチン接種者割合と言うことになる。R₀=1.5、ε=0.8 とすると、pは約0.42 つまり、国民の約4割がワクチンを接種すれば、少なくとも大規模な流行は抑制できる。

今回の新型コロナウイルスのRoは2.5であるといわれているので、ワクチンができたとしてその効果率が約80%だとしても、P<(1-1/2.5)/0.8=0.75

即ち、国民の約75%がワクチンを接種する必要がある(結構な難題、どのようにして接種するか? 年代別が効果的か?)

2009年度のH1N1新型インフルエンザによる死亡者は全世界で1万7千人(米国のみで1万2千人死亡)だったが、日本の死者数は198人で米国に比し、2ケタ少ない(人口比を考慮しても同じ/人口比は約3倍)。

日本では全世界の70%近くのタミフルを有しており(備蓄分を含む)、予防的投与も実施された。(抗インフル薬の予防的投与)

病院では積極的に抗インフルエンザ薬を処方したこと、早期の学級閉鎖、学校閉鎖を実施したことが、感染拡大、超過死亡率を抑制できたことが大きな要因と考えられている。(インフルエンザの場合、子供-子供のRoが1.36に対し、子供-大人Roは0.41、大人-大人Roは0.27)

COVID-19も治療薬が確立すれば、このような対処も可能となる(現在、明確な治療薬が無いのが難点)と考えられるのだが・・・

(参考)

季節性インフルエンザでは、学童のワクチン接種率の低下と超過死亡率の上昇がほぼ完全に相関していた(ニューイングランドジャーナルオブメディシン)ということが明らかとなっている。

子供が社会の中で伝播の中心的役割を担うので、学級閉鎖や学年閉鎖はインフルエンザの流行抑制には非常に効果的である。

超過死亡率

インフルエンザの流行(が影響したと考えられる)によって例年よりも増加した余計な死亡のことを指す。

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